Armored Core forget Answer

チャプター1

 国家解体戦争から数十年後の未来、本物の宇宙を知る者は何処にもいなかった。

1.Unknown

 『――を排除する・・・おい、聞いているのかアンネリーゼ!?』
 ヘッドホン越しにオペレータの怒声が響く。 霞スミカと言ったか、今までのオペレータと比べて随分態度がでかい。
 「聞こえてるわよ。 初任務なんだから少しくら――」
『気持ちは分からんでもないが、初任務で恥を掻きたくなかったら眼前の敵に集中しろ』
 人が喋ってる最中に話し出すなよ。 AMS端子を首筋に差し込み意識を集中する。 1秒を待たずにに少々の吐き気と大量の情報が思考を埋め尽くす。
 『ほぉ、さすがAMS適正A+といったところか』
「そりゃどうも。 機体の整備に不備、プラズマキャノンの使用可能回数が規格より少ない」
 整備不良はセレンの責任だろう。 帰ったら殴ってやる。
「そのほか異常なし。 ラインアーク守備部隊を殲滅します」
 言うと同時にブースターを噴かす。 足場の悪いところにMTが複数体、その下は海。
 「落としたほうが早いよね」
 あたしはストレイドの左手についたレーザーブレード「ドラゴンスレイヤー」で足場を破壊していく。 弾薬費の節約にもなるし、相手の命を直接奪うこともなくなる。
 『くそ、こんな時に限って!!』
「こんな時しか狙えないって」
 ヒットマンを単発打ちしながらぼやく。 トンネル内のMTを全機破壊し、プラズマキャノンに切り替える。 敵機がミサイルとライフルで応戦してくるが、プライマルアーマーの前では通常兵器など空気と大差ない。
 残敵をキャノンで沈め、レーダーを確認する。 新たな熱源が4つ。
 『ノーマル部隊が接近中。 お前が呆けているからだ、さっさと終わらせろ』
 オペレータの愚痴を聞き流しつつ新たね敵に照準を合わせる。 ノーマルが3機に旧式のカスタムAC?が1機。
 「スミカさん。 旧式もノーマルなんですか?」
『・・・知らん、セレンに聞け。 何であろうが倒せば関係ない』
 ノーマル3機をキャノンで沈め、カスタムACに照準を合わせトリガーを引く。 しかし放たれたプラズマは敵機の頭上を掠めただけだった。
 『小ジャンプ移動か。 アレをやられるとFCSがバカになる』
「だったらブレードで!」
 キャノンとヒットマンをパージして、ブレードを構える。 鉄器との距離は600、ブレードロックの圏外だがクイックブーストと一次ブレードロックによるホーミングで急接近を試みる。
 一瞬で間合いを詰め本命を叩き込む。 がふと疑問が頭をよぎった。
 「何で撃ってこない」
 ブレードを食らった衝撃で吹き飛んだ敵機に呟く。 海中に沈む最中、敵機からの通信が入った。
 『弾切れでも虚仮脅しくらいにはなるだろ? Unknown』
「なってなかったよ、全然」
 完全に沈むのを確認してAMS端子を引き抜き、大きな溜息をつく。
 『・・・ミッション完了だ。 さっさと帰るぞ、余計な奴が帰ってくる前に』
「分かってるわよ」

  そう、ラインアークの切り札「ホワイトグリント」が帰ってくる前に。


1.Unknown ラインアーク襲撃 任務完了
 
2.Undefine

 『お前には、お前の才能が有るだろ。 お前はそれを磨けばいいんだ』

 海中から引き上げられるACのコックピット内で、師の言葉を思い出していた。 落ち零れだった俺を励ましてくれた、ジョシュアの言葉を。
 「アンディー、お疲れ様。 まさか彼がいないときを狙って企業が襲ってくるだなんて」
 ホワイトグリントのオペレータ、フィオナ・イェネフェルト。 イェネフェルト教授の娘でラインアーク総括の一人。
 「むしろ、今まで狙われなかったほうが不思議だって。 それに『彼』だって、マザー・ウィル相手に相当苦戦したそうじゃないか」
「いい加減、休ませてやったらどうだフィオナ。 アイツをアナトリアから抜けさせたのはそれが目的だったんじゃないのか?」
 ホワイトグリントのガレージから声が飛んできた。 あの機体を整備できる人間なんて一人しか居ない。
 「「アブ・マーシュ」」
「リンクス戦争からこっち、結局働き通しじゃないか」
「企業連がクレイドルなんか作るからでしょ」
 反論するフィオナ。 間違っちゃいないが口を出せないのが悔しい、というのも俺の先天的な体質の所為だ。
 「俺がネクストに乗れたら良いんだけどな」
 アレゴリー・マニピュレイト・システム、リンクスの首の横にAMS接続用ジャックを付け、脳や脊髄と機体を物理的に接続することによって、ネクストを思い通りに動かす事を可能にする装置。
 このためリンクスに負荷を感じさせ、その度合いも人によって違う。 コレをAMS適正と呼び、分かりやすくするためにAからEまでに±をつけて示す。 
 アスピナのジョシュア・オブライエンやジュリアス・エメリー、ローゼンタールのジェラルド・ジェンドリンなどがAに相当し、GAのローディーやアナトリアの傭兵などがDに相当する。
 で、俺は最悪のE-な訳だ。 乗りたくても乗れない、乗るだけで死ぬような苦痛を味わう。
 「AMSなしでネクストを動かすには十数人の優秀な歯車が必要になる。 貴方を引き取ったのはその人数を確保するためなのよ」
「稼げたって数人分だぜ? そんなことしないでAIにでもやらせれば良いんじゃ・・・ん?」
 フィオナの表情が凍りついたのを見て、言葉を止める。 何かまずい事でも言ったのだろうか。
 「・・・先に帰ります。 アビー、彼のことは任せました」
「・・・了解」
 それだけ言って、フィオナはガレージを出て行き、アブ・マーシュは作業に戻る。 俺はと言うと、先ほどの出撃で大破した、愛機の残骸を眺めているだけ。
 「なぁ、アンディー」
「ん?」
 作業中のアブ・マーシュの呼びかけに応えて、近寄る俺。
 「AIでネクストが動かせると思うか?」
 先ほどの俺の安直な考察に対しての非難か、俺の顔を見ずに話し続ける。
 「今の企業連中にはそこまでの技術も、AIのモデルにするリンクスもない。 が、もしそんな技術が企業の手に渡ったらどうなるか」
 イェネフェルト教授の側近らがその研究成果を持ち逃げしたことにより、企業にネクスト開発のデータが漏れ結果国家解体戦争の激化につながった。
 「けど、そんな技術まだできて無いんだろ?」
「なら、既に完成しているとしたらどうする?」
 不適に笑うアーキテクト。 だがその目は笑っておらず、整備中のホワイトグリントを睨んでいた。 

2.Undefine ラインアーク

3.BrassMaiden

 「ギガベース撃破完了。 ブラス・メイデン帰還する」
 デビュー戦となる今回の任務は、GAの拠点型アームズフォート「ギガベース」をVOBによる急接近で旬殺しろというものだった。 別段難しいことも無く、補給艦も沈めて追加報酬をいただく余裕すらあった。
 『お疲れのところ申し訳ありませんが、インテリオルから緊急の依頼が入りました。 ミミル港を襲撃するネクストを排除して下さい』
「私以外出払っているのか。 了解、ミミル港へ急行する」
 戦闘モードから巡航モードへと移行しOBを起動する。 巡航モードではKPを全てOBに注ぎ込む為、戦闘中と比較にならないほど長時間OBを起動し続けることができる。 反面、PAを展開していないため空気抵抗などにより速度は出にくい。
 「なるほど。 ユニオンの機体が平面になっていないのはそれが理由か」
『・・・違うと思います。 まもなくミミル港に到着、我が社の新型AF「スティグロ」が破壊されることの無いよう、迅速に行動してください』
 遠くに見える岩の塊、大きな空洞の中に黄銅色のデカブツを見つけそちらに飛んでいく。
 ー戦闘モード起動ー
 モニターの表示を確認してAMS端子を首筋にねじ込む。 吐き気と大量の情報が流れ込んでくる。
 「ブラス・メイデン、ジャンヌ・D・リファイン。 敵ネクストを排除する」
 右手のプラズマライフルとエクステンションのASミサイルを起動させ、OBとクイックブーストを使い接敵を開始する。
 『敵ネクスト、アルゼブラ製ハンドガン及びグレネードを装備。 恐らく接近戦等を仕掛けてきます』
「コアがオーギルに手足が063か、独立傭兵だろうがバランスが悪いだろう」
 スティグロと敵ネクストの間に滑り込みASミサイルとプラズマライフルを放つ。 反応に遅れた敵機はプラズマを右手のハンドガンで流し、左手のハンドガンでASミサイルを撃ち落す。
 『ネクストがいるとは聞いてなかったが。 仲介人の不手際か、不慮の事態か』
 深みのある男の声、相手リンクスだろう。
 『敵情報入手しました。 アウトランカー、激震の有澤隆之です』
 有澤・・・温泉企業の親族か。 こちらの攻撃を正面から受けながらグレネードを飛ばしてくるその姿は、同社の43代社長を思わせる。 回避すれば背後の巨体に当たるそれを、致命傷になら無い程度に愛機で受け止め反撃する。 たち位置の関係上明らかにこちらが不利だ。 だが――
 『自身の楯にするとは殊勝は事だが。 そう長くはもたんぞ、この激震お前で――』
「ナメるな、石頭が!!」
 左肩に装備した二連装ハイレーザーとプラズマライフルの襷撃ち、対GAフレーム用に設計されたブラス・メイデンの最大の切り札。 GAフレームでなくとも当たれば致命傷だ。
 「ウィン・D、スミカさん。 私にも出来そうだよ」
 師と仰いだ二人の名を呟く。 彼女らが組んでくれたこのアセンで負けることは許されない。 機体からは火花が散っているが、AFとネクストを相手にしたのだからまずまずの結果だろう。
 敵機の大爆発を確認し私はその場を退いた。


 その爆発が本来起こり得ない事とも知らずに。

3.BrassMaiden ギガベース撃破及び敵ネクスト排除 任務完了



4.Earthquake

ネクストがいるとは聞いて無かったが、さしたる障害ではない。
 拳銃でASミサイルを撃ち落とすのにも飽き、アルゼブラ製グレネードを敵ネクストに放つ。 レオーネのテルスとユニオンのラトナを組み合わせた敵ネクストは後ろのAFを気にしているのか、グレネードを完全に避けようとはしない。
 「自身を盾に守るとは殊勝な事だ、が。 そう長くは続かんぞ、この激震の前で――」
『ナメるな、石頭が!!』
 張りのある女の声が通信から響く。 同時に螺旋を描く2本のハイレーザーとプラズマが視界を埋め尽くす。 咄嗟に全武装をパージし回避を試みるが間に合わず、右腕を持っていかれた挙句、グレネードの誘爆によって大きく吹き飛ばされた。 AP残量は10%未満、万事休す。
 ー作戦時間経過ー
 『約束の5分だ。 ご苦労だったな、帰還してくれ』
 GA社の仲介人からの通信、5分以内に沈めた敵艦の数に応じて報酬を支払うというのが今回の依頼だった。 ボーナス対象は逃したがまずまずの結果だろう。
 「了解・・・と言いたいが先の戦闘の被害が大きい。 今動いたら、先の奴に気付かれよう」
『さっきのネクスト、ブラス・メイデンなら撤退したぞ。 グレネードの爆発をネクストの爆発と間違えるとは、ネクスト戦は初めてだったようだな』
 そのような理由で生き長らえた事実に苦笑しながらも、OBを起動しその場を退く。 次また出会う時はフェアな条件である事を願いたい。
 「任務完了、激震戦闘領域を離脱する」
 そう言ってOBを起動し洞窟から飛び出す。 遠目に先ほどの機体が見えたが、気にせず帰るべき拠点型AFへと機体を向けた。
 『そうだ、大事なことを言い忘れていた。 お前さんが行きに付いてきた、BFFの第八艦隊とギガベースだが・・・』
「・・・まさか、先のネクストによって破壊されたとは言うまいな?」
『いや、そのまさかだ。 第八艦隊は辛うじて生き残っているがギガベースは完全に沈んでる』
 インカムの向こうで頭を掻いている仲介人の姿が目に浮かぶ。 先のネクストの事といい、今の事といいたるんでいるのではないだろうか。
 深い深い溜息をついて目的地の変更をAIに入力し、目を閉じる。
ー目的地、グリフォンに変更ー


 13年前、我らが成しえた唯一の成功へと。

4.Earthquake ミミル港襲撃 任務完了


5.未確認

 リンクス戦争最後の日、アクアビットの本社にいたあたしは、今でもあのときの恐怖と憎悪ははっきりと覚えている。

 ラインアークから帰還したあたしはストレイドをハンガーに入れるとコックピットから飛び降りた。 普通の人なら骨折する高さだが、生憎あたしの手足はAMS制御の義手義足だ。 着地の衝撃を和らげる最良のタイミングで膝を曲げ、受けきれない勢いを受身で流す。
 着地地点と一メートル離れたところで整備士のセレン・ヘイズがにこやかに拍手している。
 「おぉ、相変わらずスゲェな。 今度いじらしてくn」
「その前に殴らせろ」
 言うが早いか脊髄反射の初速度で作り物のこぶしを突き出す、無論顔面めがけてだ。 至近距離からのストレート、避けられるはずが無い。
 「甘いなアンネ、スパナを手にした俺のスペックを甘く見るな」
「片腹痛いわ!!」
 空いた手でボディーブローを叩き込みノックアウト。 セレンの胸倉を掴み、機体の不調を訴える。
 「プラズマキャノンの使用可能回数が規格の半分以下ってどーゆー事よ?! 増援が旧式のACだったから良かったようなモンのネクストだったらどうしてくれんのよ!! え?!」
「ぐ、ぐるし・・・悪かったって。 けど、結果的に足りたんだから良いじゃねぇか」
 整備士にあるまじき言い訳をするセレン。 何でこんなのが専属なんだろうか。
 「スミカさんからも言ってやってよ。 コイツ全然反省して無い」
 ブリーフィングルームから出てきたスミカを捕まえて言う。
 「私が口を出すようなことでも無い気もするが。 給料兼研究費用を大幅に減額してやれば少しは」
「いや、それだけはマジ勘弁してくれ。 ストレイドの整備が行き届いてなかったのは俺のせいであって、又俺のせいでない」
 禅問答のようなことをいい、私の手を振り解いたセレンは武装のマニュアルに添えられた一枚のメモ書きをこちらに差し出した。 
 「破格の値段で譲ってやるが使い物にならないかもしれない、って書いてあるけど?」
「俺が手を加えなければ一発も撃てない状態だった。 それを七発まで押し上げたんだぜ? それに」
 そう言って、つい今し方ガレージに侵入してきたトラックを指差す。 車体の横には佑川急便と書かれている。
 「お前が欲しがってた有澤製グレネード「OGOTO」を手に入れるためには、弾薬費や整備費を極限まで抑える必要があったんだ、っておい人の話を聞け!!」
 パーツ名を聞いたとたん走り出したあたしを制するセレン。 プラズマキャノンの不調の理由なんてどうでも良くなるくらい欲しかったパーツなのだ、「OGOTO」は。
 「シュープリスに近づけるための大事なパーツだからね」
 レイレナード最強のリンクス、ベルリオーズのネクスト。 積載限界ギリギリアウトの機体構成だが、バランスがよく使いやすい。 アーリヤを選んだのもシュープリスを真似る為だ。
 「父さんがレイレナードの研究者だったから、何度か実物を見せてもらったことがあるんだ」
「へぇ、羨ましい限りだ。 さてと、それじゃあ俺は作業に戻らしてもらおうか。 あれも付け替えなきゃならんし」
 手を振ってトラックに走っていくセレンを見送ると、スミカさんが手招きしているのに気付く。 次の依頼の話だろうか?
 「次の任務の件で話しておきたいことがある。 私の部屋に来い」
「なんで? ここじゃいけないの?」
 あたしの疑問を黙殺し歩き出すスミカさん。 何かまずいことでもあったのだろうか。

 カラードは同局に所属している新人リンクスに限り、住まいとガレージを一定期間貸し出してくれるそうで、あたしも例に漏れずカラード名義でアパートを一部屋借りている。 2LDKという割かし豪華なその部屋の一室をスミカさんは、自分の仕事部屋としている。
 「で、話って?」
 部屋にたどり着き話しの続きを催促する。 スミカさんは少し迷ったような表情を見せたが、こちらを見ながらキーボードを叩いた。
 「お前のパーソナルデータを見せてもらったが不明瞭な点が多かったもんで、個人的に調べさせてもらったんだが」
「任務の話では無いんだね」
「直接的にはな。 お前がアクアビットとレイレナードと深い関係を持っているのは事実だな?」
 首肯する。 母がアクアビット、父がレイレナードの研究者だった。 そのため度々両者の関係者とも会っていたし、本社や研究所などにも行ったことがある。
 「基本的にアクアビットは部外者を立ち入らせないだろうから、レイレナードにいた期間のほうが多いな?」
「エグザウィルには同年代の子がいたからね。 アクアビットにいるよりか楽しかったよ」
 2~3歳年上のマックスという少年とよく遊んでいたのを覚えている。 彼とネクストのシュミレータで遊んだことが、今のあたしに繋がっている。
 「ではエグザウィルがアナトリアの傭兵に襲撃された時はアクアビットにいたのか」
「・・・救助隊が来るまでずっとね」
 エグザウィル崩壊の知らせを聞いたのは、母にアクアビットへ強制連行された直後だった。 母の横暴に心底感謝したがそれも長くは続かなかった。
 「ホワイト・グリントか」
「うん」
 アスピナのジョシュア・オブライエンが乗るホワイト・グリントがアクアビット本社を襲ってきたのだ。 防衛部隊のノーマルをあっさりと撃破し、本社ビルをオーメルのロングブレードで切り刻む姿を今でもはっきりと覚えている。 アイツの所為であたしの手足は作り物になったのだから。
 「アナトリアでアレスと一緒に爆死したって聞くまで、ずっとベットから出れなかったよ」
「・・・そうか、悪かったな。 必要の無いことまで思い出させてしまったようだな」
 スミカさんの手があたしの手を握る。 消して震えることの無い、作り物の手足がギシギシと軋むのはせめてもの慰めだろう。

 ジョシュアとあのホワイト・グリントはもう存在しない、解ってはいるがそれでもあの日の恐怖は未だ拭えなかった。
 
5.未確認 休息


6.真鍮の乙女

 溜め息混じりの苦笑。 私の帰還を出迎えてくれた、ウィン・D・ファンションが最初にとったリアクションがそれだ。 その真意が分からず首を傾げると、諦めた様子でウィン・Dは言った。
 「普通、戦闘不能に陥った位ではネクストは爆発したりしない。 爆発するとしたらアサルトアーマーより強力なコジマ爆発が起き、周囲は跡形なく吹き飛ぶ」
「え? ・・・まさか?!」
 言わんとすることがなんとなく分かり、先のネクスト戦の事を思い出す。 あの時の爆発はコジマによるものではなく、燃料や火薬による爆発のようなモノだった。 何ですぐに気が付かなかったんだろうか、情けなくて泣けてくる。
 「満身創痍の状態だった相手のネクストは、貴女が去った後姿を現し退却しました。 あの時気付かなかったわたしにも責任があります、泣かないで下さい」
「オペ子さん」
 先ほどの任務で一緒だったオペレータの慰めの言葉に打ちひしがれる。 因みに名前を知らないのはミッション中に余計なことを話さないようにと、必要以上のコミニュケーションをとる事を禁じられているからだ。
 「しかし結果的にスティグロは無事だったわけですので、特にお咎めも無いようです。 ブラス・メイデンの整備班からは苦情がきてますが」
「致命傷を避けるためとはいえダメージ分散させすぎだぞ。 整備士が泣くのも頷ける」
 ウィン・Dはそういうと自分のハンガーへと歩いていく。 そこにはGAの災厄、真のブラスメイデン「レイテルパラッシュ」がある。 ウィン・Dがそこに行くということは
 「任務に出るの?」
「あぁ、スミカがついているあの新人と共同でGAのネクストを叩きに行く。 流石に初めてのネクスト戦で1対1というのはな・・・どうした?」
 私の表情の変化を悟って、ウィン・Dが振り返る。 顔には出すまいとしていたのだが、本音というのを隠すのはやはり苦痛だった。
 「何でスミカさんは私じゃなくて見ず知らずの奴となんか組んだんだろうって、思って。 それに私の初ネクスト戦はあんな結果だったし・・・」
「拗ねるな、スミカとてお前と組むつもりだったのだから。 それをカラードが捻じ曲げたんだ、彼女を責めるのは筋違いだ」
「分かってるけど・・・」
 やはり納得はいかなかった。 と、横を見ると先のオペレータが疎ましげにこちらを見ていた。 わたしでは不服か、とその眼が訴えかけている。
 「いや、そんなことは」
「そうですか。 今後とも宜しくお願いしますね、ジャンヌ」
 意味ありげな笑みを残し去っていく彼女をウィン・Dと苦笑で見送る。 それはこの先彼女とミッションに当たることになるということだろうか?
 「それでは、私も行くが。 スミカに伝えたいことがあれば今のうちだぞ?」
「・・・大丈夫、今は無い。 スミカさんに宜しくね」
 分かったと応えてレイテルパラッシュに乗り込むウィン・D。 本当は言いたい事だらけだが、それは本人に直接会った時でいい。  
 レイテルパラッシュの出撃を確認して自分の機体と向き合う。 整備中のそれは所々へこんで塗装が剥がれている。
 自分がもっと強ければ、そう思わずにはいられなかった。

 力だけでは駄目だという事くらい解ってはいるが


6.真鍮の乙女 帰還


7.激震

 有澤重工は名前の通り極東の重工企業だ。 国家解体戦争より遥か昔の世界大戦の頃から存在する。 GAとの関係もその世界大戦の結果が関係しているが、いまさら語る必要も無いだろう。 それ位中学生でも知っている。
 本社のACドッグに激震を格納し、身だしなみを整え社長室に向かう。 耐Gジェルやコジマ粒子を纏ったまま社内を歩かれては困るだろう、シャワーくらいは浴びてから出てきた。 目的のドアの前に立ち、精一杯のジョークをかます。
 「たのもー!!」
「まだ隆文は戻ってませんよ。 隆之」
 軽くスルーされたが気にせずドアを開ける。 途端、畳の匂いが鼻を掠める。 前に嗅いだのは何時だったか、リンクス戦争が終結し企業連が結成された時に呼び出されて以降訪れていない気もする。 畳張りの和室に、明かりは灯台と障子から零れる日の光のみ。 伯母に当たる文恵が障子際で茶をすすっている。
 「兄上はまた雷電で出ているのか。 亡くなった叔父上の後を継いだというのに、まだリンクスでいるつもりなのか」
「そう思うならお主も独立傭兵などやめ、有澤としてこの地を守ってはくれまいか」
 靴を脱ぐのに戸惑っていると背後から聞き慣れた渋い声がした。
 「お帰りなさい、隆文。 ランドクラブ相手に貴方が出る必要などやはり無かったではありませんか」
「うむ、あの新人。 あのような機体でようやりおる」
 アルゼブラに鹵獲されたランドクラブとその護衛部隊の殲滅。 その依頼を受けた最近現れた若手のリンクスが、隆文を僚機として雇ったらしい。 初のAFとの対峙とあって万全を期したのだろうが、雷電の出る幕も無くAFを沈めてしまったようだ。
 「何事も無くてよかったではないですか、兄上」
「なにごともない、か。 何も無ければわざわざお主を招いたりはせんのだがな」
 そう言って、GA・BFF・有澤のロゴの入った封筒を取り出し私に差し出した。 何事かと思い受け取ると隆文は部屋の奥へと歩みを進め、話し出した。
 「お主は有澤の人間でありながら独立傭兵として他企業の依頼を受けている。 そこには旧GAEやアルゼブラも含まれているのだが、それについて何か申し開きはあるか」
 封筒から出てきた1枚の紙。 内容は以下の通りだ。
 『汝が義弟、有澤隆之にアルゼブラ及び旧GAEとの関係を確認。 その真意を正し、GAグループに仇なす物であれば汝の手で始末せよ』
 この文書は隆文に送られたものであって私が読むことに意味は無い。 私は封筒にそれを戻し、脇にそれを置いて既に上座にある隆文の前に腰を下ろす。
 「今回のランドクラブ鹵獲の件でお主に嫌疑の目が向けられていたことは知っておるだろう。 激震の構成パーツも以前と比べ、アルゼブラ製のモノが増えているとなれば」
「なに、頭部とメインブースター、それにハンドガン程度ではありませぬか。 GA社のパーツよりも安定感があるのでそれを選んでいるのです」
 事実、GAのSUNSHINEよりもアルゼブラのSOLUHやEKHAZARの方が安定性能が高いのだ。 独立傭兵である以上、企業の都合でアセンを決められる筋合いは無い。 現に先ほどのインテリオルのネクストの戦いでも、GA純正の機体で挑んでいたら生きてはいなかっただろう。
 「それに依頼の内容もGAグループには直接関わりの無いものしか受けてはおりません。 アセンブリだけでそのような疑いをかけられるのはお門違いではなかろうか」
 GA、アルゼブラの両社に対して害を成すことはしない。 それが、十年前盟友と交わした契約だった。
 「イルビス・オーンスタインか。 お主らが交わした契約とやらを信用できるほど、企業は甘くも義理堅くも無い。 そもそもGAとアルゼブラの仲が悪い事くらい分からんお主でもあるまい」
「まぁ、そうでしょうな」
 隆文の表情が険しいのはいつもの事だが、今日はそれが際立っている。 が、それは私に対してというよりも今の現状に対して険しい表情をしているのだ。
 義兄とて私を信用していないわけではない、が疑わしきこと事に変わりは無く義兄が最も忌み嫌う詮索というものをしいらせている。 もし隆文に義理や信条を重んじる心が無ければ、そこまで苦しむことも無かったであろう。
 「すまないな、兄上。 だが、今は私の信ずるがままに歩ませて頂きたい」
「そうか。 ならばこの件については聞かぬこととしよう」
 そういうと隆文は封筒を取り上げ灯台の火にかざした。 燃える封筒を睨み、義兄は呟く。
 「兄弟を疑えなどと。 自由と資本を嘯くクズどもが」


 義と利は決して合間見えることの無き理想なのだろうか。


8.定義無し

 物心ついた頃から俺はアスピナ機関にいた。 その頃からAMS適性はクズ以下だったが、機関が俺を捨てる事は無かった。 他より優れた操縦技術と並列処理能力を機関は惜しんだのではないかと、アブマーシュは言っていたがリンクス戦争終結後、彼とラインアークに亡命するまで機関は特にそれらしいリアクションは取らなかった。
 その後はラインアーク守備部隊の一員としてアナトリアの傭兵が居ない間の作戦を行っている。 先日大破したカスタムAC「ECL‐ONE」は国家解体戦争時に『彼』が使っていたモノだ。 が、それも使いモノにならなくなった今、俺に出来る事といえば子ども達に算数を教える位、と思っていた矢先にネクストの外部操縦士の人数合わせに使われる事をフィオナが口走っていた。
 で、それがこれまでの主な経緯なのだが、結局出来る事がないのでホワイトグリントの整備を眺めていた。
 「アンディ、暇そうだな」
 作業の手を休めずアブマーシュが言った。 暇で無ければこんな所に長居する程、ネクストの整備に興味はない。
 「暇じゃない様に見えるか?」
「ならそこのシュミレータで遊んでてくれ。 さっきから気が散ってならない」
 そう言って指差した先には、軽量型のネクストのコア程の大きさの機械がいた。 恐らく天才アーキテクト自らが造ったモノだろう。
 「遊ぶって言っても機体にかかる負荷も出来るだけ再現してくれるから、模擬訓練よりよっぽど楽しめる筈だ」
「筈ってなんだよ?」
「これが試運転」
 そう言って俺をシュミレータに押し込み外からロックをかけた。逃げる事も出来ず渋々シートに腰を下ろす。 中にある物と言えば、フットペダル・トリガー以外のボタンが幾つかついた操縦桿・ホログラム式のキーボード、それとAMS端子・・・?
 「アビー、俺にまた臨死体験しろと?」
「大丈夫だアンディ。 AMSジャックに繋ぎはするが、そいつはAMSじゃなくてただの脳波出力装置だ。 始めるぞ」
 初の耐Gジェルの洗練を受けながら端子を首筋のジャックに繋ぎキーボードを叩く。 シュミレータの機体設定は既にされているらしく、すぐにアセンブリが表示される。
 「ホワイト・グリント?」
 それも今現在ラインアークの切り札として戦っている、アナトリアの傭兵のものではなく、アスピナのジョシュア・オブライエンのホワイト・グリントだった。 HOGIREの頭にSOLUHのコア、JUDITHの手足、ローゼンタールのASTライフルにハルバード、エコレーザーとアセンブリに何ら違いが無い。
 「もう少し防御力に配慮した機体にしておけば、あいつももう少しは長く生きられたのかもな」
 天才アーキテクトが呟く。 無二の親友をアナトリアに失いその敵の傘下に入ることを決めたときも、同じ事を言っていた。 アブ・マーシュは知らないのだ、ジョシュアが果てた時ホワイト・グリントには乗っていなかったことを。
 「まぁいい、過ぎた話だ。 シュミレーションプログラム『ソルディオス』起動」
「はぁ?! ちょっと待てよ何でそんないきなり巨大兵器なんか相手にしなきゃなんないんだよ!!」
 巨大兵器ソルディオス、GAEとアクアビットの技術によって生み出された最悪のコジマ兵器。 アナトリアの傭兵とジョシュアが二人掛かりでやっとの事で撃破した程の厄介者と、なんでネクストのシュミレータすら初めての俺がそんなのに挑まなきゃならんのだ。
 「威力だけのデカブツだろ。 それとも何か? ついさっき完成した『AFマザー・ウィル』の方が良いのか」
「仕事が速いわね」
 駄々をこねているとフィオナの声がした。 キーボードを叩き画面に外部の状況を映し出させると、ファイルを持ったフィオナがアブ・マーシュの隣に立っていた。
 「企業連から緊急の依頼が入りました。 建設途中のクレイドル21を占拠するリリアナの実働部隊を排除しろとの事ですが・・・ホワイト・グリントの整備は?」
「アンディーが駄々こねてる間に終わった。 だが彼はまだ使えそうに無い」
 そういってコックピットを指差すアブ・マーシュ。 愕然とした表情でフィオナは呟いた。
 「今回の依頼は断れないわ。 無理を押してでも出撃させないと」
「ホワイト・グリントが必要なだけで伝説のカラスを同席させる必要は無いわけだろ。 だったら」
「けどアレはまだ完成して無いって貴方――」
 アレ、とは何のことだろうか。 そう考えていると耐Gジェルが半分だけ減り、ロックが解除された。 新鮮な空気を吸い込み肉眼で外を見ると、フィオナが真剣な眼差しでこちらを睨んだ。
 「・・・アンディ・ファイン。 ただ今より貴方をホワイト・グリントのサブパイロットに任命します」
「・・・・・・はい?」
 何を言っているのかさっぱり分からない。 アブ・マーシュに助け舟を渡してもらおうとそちらを向くと、気難しい表情で言った。
 「お前が言ったとおりAIでネクストを動かすことは可能なんだが、その制御、運用が非常に難しく現段階ではどの企業もその技術は持っていない。 また、AMSなしでネクストを動かすには十数人の優秀な人材の完璧な連携が必要となる」
「それは聞いたけど、無い技術でどうすんだよ」
「もう完成している」
 なら、既に完成しているとしたらどうする? この男は先ほどこう言っていた。 だが完成しているのなら何故今まで使わなかったのだ?
 「現在、ホワイト・グリントには『彼』のAIとAMS外部送受信機が載っているだけなんです。 『彼』はリンクス戦争以降コジマ汚染とAMS付加の影響で心身ともに衰え、今ではネクストはおろか、ACに乗ることも出来なくなっています」
「それを外部からのAMS接続とAIだけで今日まで保たせてきた。 が、さっきのAF戦で遂にガタが来た。 これ以上は命に係わると医者も言っていたし、いい加減休ませてやるべきだった で、目の前には優秀なレイブンがいる」
「けど俺じゃ、ネクストには・・・まさか」

「お前の並列演算処理能力と『彼』のAIがあればネクストを動かすことが可能になる。 そうすればラインアークにはもう1枚の切り札が手に入る、スペードの3レベルのな」

8.定義無し もう一枚の切り札

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